- 作者: 志賀直哉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1990/03/19
- メディア: 文庫
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作家志望の主人公謙作は、母の死後、突然現れた祖父の元に引き取られる。
祖父の死後も、祖父の妾であったお栄と共に気ままな放蕩生活を送る。
父からの不当な扱い、幼馴染みへの求婚の理不尽な破綻・・・
謙作は自分の不運を嘆き自暴自棄になっていたが、
あるとき自分が祖父と実母との不義の子だということを知る。
事実を受け入れるための、そして母を赦すための葛藤の日々を送っていたが、
京都で出会った直子と結婚し、ようやく幸せな家庭を手に入れることができた。
しかし初子の病死にはじまり、過酷な運命はまたも謙作を翻弄する。
謙作の留守中に直子が従兄弟と過ちを犯してしまうのである。
それを知った謙作は衝撃を受けるが、直子を許そうと心に決め、
幸福を得るための葛藤の日々が始まる・・・。
直子を憎もうとは思わない。
自分は赦すことが美徳だと思って赦したのではない。
直子が憎めないから赦したのだ。
又、その事に拘泥する結果が二重の不幸を生むことを知っているからだ。
赦す事はいい。実際それより仕方がない。
・・・・・・・・・然し結局馬鹿を見たのは自分だけだ。
志賀直哉の唯一の長編作品。11年をかけ、昭和12年に完結。
とても奥行きの深い作品で、内容もさることながら、
主人公が今で言う「自分探しの旅」に出た先々の情景描写もいきいきと美しい。
主人公の身の回りでは自分のせいではない不幸が次々と起こる。
運の悪さをのろい開き直って放蕩をしているのだが、その理由を知ってから何かが変わる。
運命に振り回されるのではなく、受け入れ、支配していく方向へと変化していく。
今よりももっと沢山の辛いことや痛みを知ったうえで読むと
さらに感じるものも多いのではないかなあ、と思う一冊。