- 作者: 谷崎潤一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/08/05
- メディア: 文庫
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明治43年発表の処女作で、僅か10頁という短編の中でも短い短編です。
兄の教える高校でも谷崎は「読みにくい」「気持ち悪い」「変態ぽい」と
生徒からの評判が悪いようですが、その要素がこの10頁に全部入っています(笑。
「それはまだ人々が「愚(おろか)」という貴い徳を持って居て、
世の中が今のように激しく軋み合わない時分」のお話。
主人公は刺青師の清吉。
刺青を彫るとき、大の男がその痛さに耐えかね呻き声を発するが、
清吉は「その呻きごえが激しければ激しい程」、「不思議に云い難き愉快」を感じていた。
そんな彼の「宿願」は「光輝ある美女の肌を得て、
それへ己の魂を刺り込む事」だった。
3、4年探し求め、あるとき彼は簾の陰から完璧な「足」を見かける。
勿論、顔見たさに追いかけるのだが見失ってしまう。
―それからまた5年、偶然にもその足の持ち主がお使いで清吉の元へやって来た。
清吉は少女を眠らせ、その昏睡のうちに刺青を施すのだった。
背一面に脚を伸ばした蜘蛛を得た少女が目を覚ますと・・・。
はい。谷崎ワールドへようこそ♪という感じです。
彼の云う完璧な足っていうのは、
「やがて男の生血に肥え太り、男のむくろを踏みつける足」です、ちなみに(汗。
踏まれたくて仕方ないんでしょうねえ。
人が潜在的に持っている変身願望を
自らの手で叶えてやるというところの快感というか。
この辺は美少女「ナオミ」を育てあげた挙げ句
ぐてんぐてんに踏みつぶされる「痴人の愛」なんかにも顕著ですね。
ところが、こんな内容なのにも関わらず、非常に美しいのです。
しかも10頁でこれだけの世界観を書ききってしまうという凄さ。潔さ。
好き嫌いは分かれると思いますが、是非ご一読を。