- 作者: 原宏一
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2001/01/01
- メディア: 文庫
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"新奇想小説"と銘打った短編集。下記5話がおさめられています。
- 床下仙人
- てんぷら社員
- 戦争管理組合
- 派遣社長
- シューシャイン・キング
これらは完全に独立した短編ですが、共通するのは
少々働き過ぎの人々が主人公、というところ。
家族のために、会社のために身を粉にして働いてきたというのに
感謝されるどころかむしろ煙たがられる始末。
気付いたら居場所の無くなっていたオジサマ達の物語。
たとえば表題の「床下仙人」。
「結婚四年目にして、やっと子供ができ」、「郊外の新興住宅地に
手頃な一戸建てをみつけ」、引っ越してきた「おれ」が主人公。
「おれとしては、多少狭かろうが、会社まで三十分という
交通至便な賃貸マンションでじゅうぶんだった」のだが、
引越は子供の教育のためといって妻は譲らなかった。
結果、片道一時間十五分をかけて会社に通うことになる「おれ」。
平日は連日午前様だし、会社に泊まり込むこともしばしば。
さらに「土日祝祭日は休日出勤か接待ゴルフ」という日々。
引越は、諸々の手続きを妻が引き受けるという条件で合意に至ったが、
その疲れが出てきたのだろうか、
この家には何かいる。
妻がそう言い出したのは、入居して二か月ほど経ったころだった。
しかし「おれ」は妻の訴えを「疲れのため」と決めつけ実家で少し休むように促す。
仕事では海外出張だとかクレーム処理なんかが重なり、
いけすかない上司が今日も嫌味を飛ばしてくる。
誰かがいる?冗談はやめてくれ、それどころじゃないんだ。
幸い、最初は不安がっていた妻も
「気のせいだったみたい」と落ち着いてきた。
ところがその後、「おれ」は仙人のような風貌の男に遭遇することになる。
もちろん、「おれ」の家の中で。
さいしょは洗面所。次はリビングと、次第に「仙人」は大胆になってきて・・・
************
果たして「仙人」は何者なのか?「おれ」はどうなってしまうのか?
ネタバレなのでここでは書けませんが、
「夫が悪い、妻が悪い、会社が悪い、日本の社会構造が悪い、
理屈はいくらでもつけられます。でも」
ー中略ー
「どうしてなんでしょうねえ」
という疑問をなげかけて、物語は幕を閉じます。
わお!面白い!とも、トリッキーというほどでもないし、
「へえ、そうなのね」という読後感ですが
全篇通してこんな雰囲気です。
なんとなく、時代感が私の父親世代な感じを受けます。
高度経済成長期?リストラ世代?ちょっと古い?
まあ、今時の働くお父さんがどんな感じか分からないので
じゃあ今っぽいってどういうこと?と言われると困りますがw
全体的に、言わんとしていることは伝わってきます。
働くってさ、結局なんなんだろうね、という
誰もがきっと一度は脳裏をかすめたことがあるであろう問いなんかもそのひとつ。
さらりと読めるので、気軽に読んでみては。