
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/05
- メディア: 文庫
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1973年に刊行された小説。
とにかく構成が難解で一度読んだだけでは理解し難いと思います。
二度三度読んでも果たして理解出来得るのかというのは置いておいて。
これは箱男についての記録である。
ぼくは今、この記録を箱のなかで書きはじめている。頭からかぶると、すっぽり、
ちょうど腰の辺まで届くダンボールの箱の中だ。
つまり、今のところ、箱男はこのぼく自身だということである。
箱男が、箱の中で、箱男の記録をつけているというわけだ。
はじめは箱男が箱男の記録を付けているという形で始まり
箱男とは何ぞや、どうやって箱を作るのか、というところから物語は徐々に転がり出します。
カメラマンだった箱男。
箱男をちょっとばかり気にしすぎたために箱男になったA。
箱男から5万円で箱を買い取り「破って捨てて」と言う看護婦。
贋箱男となった贋医者。
贋医者に殺された医者(元箱男)。
供述調書。
覗きをしようと試みて失敗し、覗かれる立場になった少年D。
誤解から花嫁に逃げられたショパンと箱を被り続ける父。
・・・・話が進むにつれ、記録ノートの錯綜が暴走していきます。
一体だれが箱男で、だれがノートを書いているのか?
そこで、考えてみて欲しいのだ。
いったい誰が、箱男ではなかったのか。誰が、箱男になりそこなったのか。
とにかく難解。でも、その根底にあるテーマはすべて
「覗くという行為」と「覗かれるという行為」、
そして「ほんもの」と「贋もの」ということに集約されていくのです。
しじゅう覗き屋でいつづけるために、箱男になったような気もしてくる。
という箱男による告白もあるのですが、
箱を被ることで世俗とのあらゆる関係絶った匿名になるということ。
このあたりに箱男になることへの誘惑があるのだとほのめかしているような気がします。
Aにもし何か落度があったとすれば、それはただ、
他人よりちょっぴり箱男を意識しすぎたというくらいの事だろう。
Aを笑うことはできない。
一度でも、匿名の市民だけのための、匿名の都市
― 扉という扉が、だれのためにもへだてなく開かれていて、
他人どうしだろうと、とくに身構える必要はなく、逆立ちして歩こうと、道端で眠り込もうと、
咎められず、人々を呼び止めるのに、特別な許可はいらず、
歌自慢なら、いくら勝手に歌いかけようと自由だし、
それが済めば、いつでも好きな時に、無名の人ごみにまぎれ込むことが出来る、
そんな街 ― のことを、
一度でもいいから思い描き、夢見たことのある者だったら、他人事ではない、
つねにAと同じ危険にさらされているはずなのだ。
もし、物語としての筋や時系列の破綻、主体の曖昧さがOKな人なら楽しめると思います。
私はむしろ好きなタイプの小説です。
というか、こういう非現実的な現実感というのは物語の醍醐味じゃないかなあ。