- 作者: アンドレイ・クルコフ,沼野恭子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/09/29
- メディア: ペーパーバック
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実は現代ロシア作家の作品を読んだのは初めて。
ロシアといえばトルストイとドストエフスキーとチェーホフだけ。
だから、どんなもんだろうなー、という興味で手を伸ばしてみました。
主人公は売れない小説家のヴィクトルという男。
餌を出せなくなった動物園から貰ってきた皇帝ペンギンのミーシャと暮らしていた。
今までで一番うまくいったのは、ショートショート。
ようやく仕上げた短編を新聞社に持ち込むが、追い返されてしまう。
ところが後日、『首都報知』新聞社の編集長から電話が来る。
気の利いたショートショートを書ける作家を探していたという。
ただし、内容は決まっているとのこと・・・それは
「将来死ぬかもしれない人」の追悼文「十字架」を書きためることだった。
しかも、高額の報酬で。
新しい<十字架>を書き上げてから、初めてあることに気づいて考えこんだ。
それは、これまでに書いた追悼文はどれも、
うしろ暗い過去があるらしいとか実際にそうだった人ばかりで、
・・・中略・・・
「追悼文が書かれるにふさわしい人というのは、
たいてい何らかのことを成しとげた人間だ」自分の考えを先に進めた。
「そういう人たちは自分の目的のために闘うわけだから、
闘っているうちに清廉、誠実ではいられなくなる。
それに、今の世の中、闘うっていったら、
物質的な理想を求めてに決まってる。無鉄砲な理想主義者は、
階級ごと死滅したんだ。残ったのは、無鉄砲な現実主義者ばかり・・・・・」
「十字架」の仕事を受けてから、
小説家と憂鬱症で不眠症のペンギンの生活は変わり始める。
自分が書いた追悼文の主人公達が次々と不慮の事故で消え始めたのだった・・・・。
と、なかなかミステリアスで不思議な雰囲気の小説でした。
主人公の周りがぐるぐるぐるぐる動くのに、
当の本人は何も知らされない。というか「知るな」と言われる。
それを不安に思いながらも、淡々と仕事をこなしていく主人公。
数日間身を隠せ、という状況の中でも、どこか飄々としている。
諸々の理由から疑似家族での生活が始まるのだが、そこに愛は生まれない。
唯一彼が大事に思うのは病気のペンギンだけ(と、消去法的に気付く)。
シンプルで飄々とした感じの文章がそんな雰囲気を良く出していたように思います。
ソ連時代の話なので、動物園は次々に動物を手放したり、マフィアが暗躍していたり、
入院するには医師を買収しなくてはいけなかったり・・・そういう背景もなかなか興味深いです。
自分は結局何の仕事をしていたのか?ペンギンの運命は?
いやそもそもペンギンとは・・・?
ちょっぴり後味の悪い感じで終わりますが私はそういうのダイスキなので満足です。
ちなみに、物書きが不可解な出来事に知らないうちに巻き込まれて
しかも主人公は疑問をもちながらもその不可解な状況を受け入れて行動していく
・・・って既視感たっぷりだったんですが
あとがきに「作者は村上春樹も好き」と書いてあったので、ああなるほど、という感じでした。
世界観は、似てます。でも村上ワールドほどファンタジーでもない。
あっという間に読めてしまいますので、是非ご一読を。